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蚕種冷蔵室及び蚕種保護室
当時は、蚕の卵を用いた実験と卵の保管を行う場所として使われていました。現在は一般公開されていないものの、当時のまま建物は残されています。

これまでのあゆみ
竣工年
1934年(昭和9年)12月
当時の使われ方
蚕の卵を用いた実験と卵の保管を行う場所として使われ、貯蔵庫棟の⻄側に冷蔵室、東側に保護室がつくられました。
【蚕種の温度調整】
冷蔵室には、主に北側の五室を低温室(0〜5°C)、南側五室を常温室(20〜25°C)と設定され、それぞれ写真のように設備が異なったものでした。
日本の蚕は、ほとんどが一年に一回しか世代を過ごさない蚕で、春に一回飼育すれば、それから産まれた卵は休眠してしまい、次の年の春まで卵は孵化しません(休眠卵あるいは越年卵)。そのため、休眠をさます方法が考えられ、一つは卵を5°C前後の低温に少なくても 2〜3か月置いておく方法です(低温処理法)。もう一つは卵を塩酸による浸酸処理によって休眠卵を活性化する方法(浸酸法)が考えられました。これらの方法により、休眠卵を産卵後から約一年間、自由に蚕を孵化させることができるようになりました。蚕の卵は約0〜5°Cでは発育を止め、約10°C以上では発育を始めるため、さまざまな温度で孵化させる日数を変えることが必要になりました。

▲ 北側の冷蔵庫が並ぶ様子

▲ 南側の保温庫が並ぶ様子
つまり、温度の違う部屋を様々用意することによって、休眠卵を活性化させ、必要な時に孵化させることを可能にしていました。
春に飼育した蚕の越年卵を翌年の春蚕期に掃立をするときは、産卵後25°Cの常温室に約40〜50日、20°Cの常温室に約30日置いてから自然温度に移します。そのため、蚕種を蚕種保護室に置き、冬の寒さで低温処理して卵を活性化させ、孵化は、卵を常温庫(25°C)に移すことで可能となるのです。

▲ 北側と南側の意匠の違いが分かる図面
北側は低温庫で、より庫内に断熱性が必要であったことから外部を遮断する建具の厚みが南側よりも厚くなっています。加えて北側の窓は重厚な片開き戶で、外側の庇(ひさし)が510mm、南側の窓は網戸付きの両開き戶で庇(ひさし)が400mm程度。このことから、北側はより日差しの影響を受けないよう配慮されていたものと考えられます。
冷蔵室全体は、床・壁・天井がコンクリート仕上げで、廊下の床には清掃・消毒時の排水用の側溝が設けられており、側溝の中には水道の蛇口も設けられていました。

▲ 排水用の側溝と蛇口
【蚕種の低温保護】
東側の蚕種(さんしゅ)保護室は、越年蚕卵を自然温度に移した後、保護・保管するために利用した室です。


▲ 保護室の様子(昭和60年代前半)
越年蚕種は産卵後休眠に入り、翌年になって孵化をします。この産卵直後から翌年孵化するまでの期間の蚕卵の取扱いを“蚕種の保護”と呼び、この期間の保護の良否は、卵の孵化に重要な影響を与えるだけでなく、交雑種では作柄や繭糸質にも影響するため、極めて重要な作業でした。越冬期は胚子の発育段階をそろえ⻫一な活性卵を得ることと、活性化した卵の消耗を防止することを目的として低温保護が行われました。蚕種保護室は、この冬期間低温処理を自然温度で行うための部屋として機能しました。

